「崩れ去った道」



僕達の旅はまだまだ続く。

果てなく続く真っ直ぐな道の先の曲がり角を曲がり、

時には振り返ってみたりもした。

そこに何も無くても、僕はただ進み続けた。

だが、僕の道をふさぐ障害物に出くわした。

これを壊して進むのは容易な事ではない。

避けるのであれば相当な遠回りが必要とされた。

すると、その時奇蹟は舞い降りた。

物凄い轟音と共に稲妻が降り注いだのだ!!

岩はバラバラに崩れ去っていた。

だが、僕等の進むべきはずの道も崩れ去っていたのだった。





いつもより少し速く目がさめた。
休日とはやはりこう言うものなのだろう。

「そう言えば、母さん達はどうしてるかな……」

ふと思い立って電話をかけてみる。
朝早いといっても、平日の8時。
普通に考えてみればとっくに目がさめてても良い時間帯だ。

僕は受話器を手にとりダイヤルを回す。
22世紀にしては随分洒落のきいた電話機だと思った。
何の抵抗も無く使う僕も中々しゃれてると思った。

数度コールすると、電話会社へと繋がった。

「貴方のおかけになった電話番号は現在使われておりません」

そんなはずはない!そう思い僕は確認しながら自宅へと再度電話をかける。
だが、繋がらなかった。同じ様に使われていませんと言われるだけであった。

「電話料金払ってないのかな……」

僕は諦めて受話器を置く。

何気に振り返ると、そこには恵が心配そうな表情で立っていた。

大体言いたい事はわかる。
勿論恵には電話を使う事は出来ない。
たぶん、僕に代わってかけろと言いたいのだろう。

僕が軽く身体をのけぞらせ電話への道を明けると、
恵は早速とばかりに受話器のダイヤルを回し始めた。

こちらはきちんとつながり、恵のお母さんが電話に出た。
僕が簡単な状況と、恵は元気にしていると伝えると、
「恵の事をよろしくお願いします」とだけ言って電話は一方的に切られた。

そして、僕が受話器を置いたとたん、
玄関のチャイムが静かな室内に鳴り響く。

僕等は軽く顔を見合わせ、二人揃って玄関へと向かう。

「おっす!」

ドアをあけるとそこにはグリーンがいた。
と言うか、一番ガタイが良いので、最初に目に付いたのがグリーンだった。

「おはよう、良い朝ね」

そして、グリーンの背中越しからヒョコっと言うか、
効果音的にはニョキっと言った感じでブルーが生えてくる。

「おはようございます、朝から仲が良くて羨ましいですね」

冗談交じりで沙紀が微笑しながら呟く。
恵は顔を真っ赤にして首をフルフルとふっていた。

「流石、富樫夫妻宅やな。朝から熱々や!おー暑い暑い」

そんな由紀の言動は少しおばさんくさかったが、あえて突っ込まずに置く。

「おはよう、みんな。……一人いないけど?」

そこにはブラックの姿が見えなかった。
僕が不思議そうに見渡していると、ブルーが言う。

「大樹ちゃん、恥ずかしがってるのよ。門の影に隠れてるわ」

変な奴と心の中で思いつつ、僕達は皆に促されて家を後にした。

ちなみに、学校はと言うと、
今日はガルディアリーダー登場記念で特別休校にしたとか。
そんな理屈が通るのかと思いつつも、
理事長があっさりと了承してくれたので僕等は今日休日となっていた。

「おっす!」

僕は、門の影に居たブラックに爽やかに挨拶をしてみる。

「…………おっす」

物凄い間があったが、キチンと挨拶をしてくれた。
決して明るい奴ではないけれど、
根はきっと悪い奴じゃないんだなと少しブラックを見直した朝であった。

ちなみに、僕等がこれから向かう所はと言うと、
交流会の基本ともいえる、居酒屋。
普通は夜からの居酒屋だが、
知り合いなので頼み込んで昼間入れてもらえるようにしたとか。
勿論、部費を使っての宴会であるのは言うまでもなく。

ついでに言っておけば、
未成年の僕等が「飲むぞー!」と張り切っていたのも言うまでもなく。



既に予約済みと言うだけあって、
僕等が到着して飲み物を注文すると、
次々とメニューが運ばれてきた。

それから数分して、
全員に飲み物(勿論アルコール)が行き渡った時、
沙紀が言った。

「全員飲み物は行き渡りましたね?
それでは、リーダーに自己紹介のあと、
乾杯の音頭をとって頂き、
今日の、リーダー赴任記念ガルディア部隊大宴会を開催したいと思います!
では、リーダー!!どうぞ!!!」

「どうぞ!!!」と言われてそんなすんなりと立ち上がれる僕ではなかったが、
回りの盛り上がり具合、言うなれば場の空気に流されて、
高揚した気持ちのままコップを片手に持ち立ち上がる。

一度全員の顔を見渡し、
深呼吸をして気持ちを整えた所でまず恵の手をとり立ち上がらせた。

「メインディッシュの前に前菜を頂かないとね?」

僕の突然の行動に恵はワタワタと手を振り慌てふためいている。

「お、そう言えば恵ちゃんの自己紹介も聞いてなかったな!」

「レッド、ナイスよ!」

「ほれ!みんなで恵コールや!!!」

由紀のそれに触発された様に、
皆手をたたき、「恵!」とコールを上げ始める。
ブラックまでもがキチンと手をたたき、
ノリノリでコールをしていたのにはちょっと驚いたが……。

最初は涙目で僕に訴えていた恵だったが、
やはり場の空気に流されてきたのか、
いきなりに何かを決意したような眼差しで、
バッと両手を掲げ、クルクルと回ってみせる。

で、結局変わりに喋るのは僕なのだが、
恵の自己紹介が始まっていった。

「私の名前は、河野 恵です!年は16、誕生日は8月3日!しし座です!
血液型はAB、身長は151、体重は……秘密!!
趣味はウインドウショッピング!
えっと…、私は戦えないし、戦う力も無いから、足手まといかもしれないけど、
みんなと仲良くしていきたいです!!よろしくお願いします!!
あ…あと、私の事は恵って呼んでね!こんな所です!!」

そして、恵はペコッと頭を下げて、
ソソクサと逃げるように席へとついた。

ブラックによる指笛が響き、
グリーンやブルーは盛大に声援をあげていた。

「恵ちゃん!可愛い自己紹介だったぜ!!」等と。
喋っていたのは僕だと言うのに、
しかも殆ど初対面だと言うのに差別無く彼女の存在を、
ここまで同じ人間として思える彼等は素晴らしいと心から思った。

「メインディッシュやーーーー!!!!!」

感動を全てぶち壊すかのように由紀が馬鹿でかい声を上げた。

そして、「メーインディッシュ!!」とコールがあがる。
正直なんだか嫌なコールだったのは言うまでもなく。

ふと恵に視線を落とすと、
音は発せられていなかったが、口を一生懸命動かしていた。

こんな恵は初めて見た。
恵はずっと差別を受けすっかり僕以外の人間には心を閉ざしていた。
だが、今彼女は心を開いて、ここに居るメンバーと心を1つにしているんだ。

そう考えると自然と笑みがこぼれた。
嬉しさに涙が出そうになっていた。
ガルディアのメンバー。…出会えて良かった。

「僕は、富樫 時夜。まぁ、特に紹介する事もないし、
必要があれば後々語っていくよ。気になる事があったら聞いてくれ。
あ、そうそう、出来れば僕の事はなるべく名前で。
レッドってのも悪くないけど出来れば時夜ってみんなにも呼んで欲しい。
僕も皆の事、名前で呼び捨てで呼びたいから」

メンバーから「おー!!」との歓声があがった。
まだ始まったばかりなのに、嬉しさで涙がこぼれそうだった。

「じゃあ……ガルディアメンバー全員に…有り難う!!よろしく!!乾杯!!!」

『かんぱーい!!!!!!』

カチンっと音を立てて7つのグラスがぶつかり合った。



どれ位の時間が経ったのだろう。
それは、皆が完全に出来上がってからの時だった。

「なぁ、時夜」

「なんだよ、隆二」

隆二=グリーンが僕に絡んでくる。

「お、ちゃんと俺の通称も覚えててくれたのか!
流石、リーダーだぜ!!」

そして、続けてこう言った。

「なぁ、お前さぁ、沙紀と由紀、付き合うとしたらどっちを選ぶ?」

「は?」

僕の心中を察してか、すぐさま隆二は、
「恵ちゃんは無しだぜ」と付け足す。

僕は女性人のほうへとちらちら視線を動かす。
三人とも見事に酔いつぶれて部屋の片隅で仲良く眠っていた。

皆スカートをはいているので、
寝返りをうつたびに見え隠れする太ももがいやらしい。
時々あげる声も酔っ払っているせいか妙に色っぽい。

「僕は…やっぱ沙紀かな?」

僕がそう答えると、「やっぱりそうか!」と隆二は言う。

「でもな、時夜。悪いことは言わねぇ。
何があっても沙紀には惚れるなよ?」

「なんで?」

すぐに疑問でうって返すと、隆二の代わりに、
浩輔=ブルーがこう答えてきた。

「ふふ、時夜もそのうちわかるわ。
沙紀の本当の姿がね」

よくわからなかったが、その後、大樹=ブラックがぼそっと呟く。

「俺も…どちらかと言われれば、由紀を選ぶ」

彼等がここまで沙紀を拒否するのは何故なのだろうか?
僕からしてみれば、由紀は、
おてんばで五月蝿くて子供っぽくて落ち着きが無い。
だが、反対に沙紀は、
明るくて家庭的でちょっと変わってるけど才色兼備な香りがする。

そして、僕が「なぁ、何で沙紀……」

と言いかけた瞬間。

「…時夜さん、呼びました?」

背中越しに寝ぼけた様な声でそう聞こえてきた。

「あ、や、なんでもないよ!!」

声に慌てて振り返ると、
眠たそうに目をこすりながら起き上がる沙紀の姿が見えた。
僕は隆二に軽い寸鉄をかまし、
更に「何か話題をふれ!」と言った感じの目線で合図を送る。

「あ〜、沙紀がバイクの免許を持ってるって話をしてたんだよ!!」

危うく「そんなの持ってるんだ?」と言いかけたのは秘密だ。

「バイクの免許?あぁ、ガルディアの為に特例でとったあれね?
時夜さん、宜しかったら今度私の自慢の愛車にお乗せしますよ」

そう言って沙紀はニコッと微笑む。
その笑顔はまるで夜の闇をも吹き飛ばす真昼の太陽だった。

「はは…その内お願いしようかな」

「はい!」

この時、明らかに同情するような眼差しで、
男三人が僕を見ていたのは何故だったのだろうか?